気高きジョウルの膨らみ

去勢された牡猫の睾丸へ捧げる鎮魂歌

猫への投薬の工夫

Vocatus atque non vocatus, Deus aderit.
猫は三年の恩を三日で忘れるなんてよく言われるが、そのくせイヤなことはいつまでもいつまでも覚えていたりする生き物だ。猫が病気を患ってしまった時には、早くつらい思いから解放してあげたいと治療を施すわけだが、猫に薬を飲ませる際に厭な思いをさせてしまうと、その後、その仔の生涯にわたって投薬のたびに苦労することになりかねない。なるべく、猫にもヒトにも負担のない投薬の方法を工夫したいものだ。
 

猫への投薬方法の一例

 
猫はとても個体差の大きな生き物で、素直に投薬を受け付ける仔もいれば、激しい抵抗を示す仔もいる。抵抗する個体の中には、投薬という行為そのものよりも、身体を保定されることや、意志に反して口を開けられることを嫌がっている者もいるのかも知れない。はじめに断っておくが、激しい抵抗を示す猫には、これから提案する方法だけでは対処できない可能性がある。
 

良薬苦口?

ウルソという利胆作用のある錠剤を動物病院で処方された時に、どんな味がするのか僕自身が試しに齧ってみたことがある。顔をしかめずにはいられないほど、それはそれは苦いなんてもんじゃあなかった。
 
一方で、ビオフェルミンのようなほぼ無味無臭の整腸剤では、剤形が錠剤の物はドライフードに紛れ込ませても良いし、細粒であればドライフードにふりかけたりウェットフードに混ぜても、問題なく投与できた。中には強力わかもとのように、猫の鼻先に錠剤を持って行くと喜んで食べてくれる整腸剤もある。
 
このように、薬品の味や匂いが猫への投薬の難易度に影響するであろう事は容易に推測できる。であれば、厭な薬の味や匂いを封じ込めてしまえばどうだろうか?そこで登場するのがオブラートや空カプセルだ。その他に、薬を包む為の鰹やチキン風味のペースト状でできたお薬投与補助食品というものもある。
 

投薬補助

投薬補助に使用するもの
左上:オブラートを1/4にカットしたもの、右上:オブラート1枚。
左下:錠剤、中央下:オブラートに包んだ錠剤、右下:空カプセル
 
錠剤をオブラートで包む時には、オブラートを1/4から1/6程度にカットしたものを使うと余りがでずに使いやすいと思う。最後に水にしめらせた綿棒などを使って端を接着させる。2~3種類の薬を処方されても、オブラートで薬を包んでしまえば、1度の投薬で済んでしまう。
 
粉末や顆粒状の薬の時には空カプセルの方が使い勝手が良いだろう。大抵、粉末を空カプセルに詰めるための漏斗が付いてくる。
 
ステロイド等の比較的小さな錠剤を服用させるときには、ブロック状に成形されているウェットフードやお刺身を小さなブロック状に切って、その中に錠剤を隠して与えると無理なく服用させることができる。猫がものを食べるときには、殆ど丸呑みにしてしまうので、錠剤をかみ砕いてはき出してしまうことは滅多に起きないと思う。また、最初に薬を仕込んだフードを食べたことを確認してから残りを与える事が大切だ。
 
オブラートや空カプセルで包んだ薬、或は包んでいないそのままの薬でも、いずれにしても、口腔や食道粘膜に薬が貼り付きやすいので、投与後すぐにシリンジ等を使って水を飲ませることが必要だ。薬が粘膜に張り付いたままでいると、炎症や潰瘍を起こす可能性がある。もし、薬が口腔から食道粘膜のどこかに張り付いてとれないときには、直ちに獣医師に連絡を取り指示を仰ぐ必要がある。
 
上手に薬が飲めた後には、グリニーズなどの猫用トリーツを一粒二粒与えるのも薬の服用に肯定的な印象を与える上で良いかもしれない。ただし、食事に制限がない猫の場合に限る。
 
投薬器とシリンジ
上:投薬器(大)、中央:投薬器(ピルガン)、下:シリンジ
 
そして、なるべくスムースに薬を飲んでもらう為には、猫の口の中に薬を投下する時に喉の奥の方へ落とすことが大事だが、口が小さくて指を差し入れるのが難しかったり、猫が興奮して指をかまれる可能性がある時などは、投薬器を使うと良いだろう。上図の中央にあるピルガンくらいの大きさが猫にはちょうど良いと思う。そして、興奮した猫に使用する時には、投薬器の先端を噛み切って誤食してしまう可能性があるので注意したい。(先端を噛み切ったことが実際にあった。)
 

漢方薬

漢方薬(猪苓湯)
左上:1回分に分包された漢方薬エキス顆粒
左下:1回分の漢方薬エキス顆粒
右:1回分の漢方薬エキス顆粒を少量のお湯に溶かした物
 
猫にも漢方薬が処方されることがある。人間の薬が猫に転用されることはよくあることなので不思議ではない。大抵は生薬の浸出液から成分を抽出した乾燥エキス顆粒が処方されると思う。
 
ところで、同じ漢方薬でも生薬を煎じた煎じ薬を服用するのと、成分を抽出した乾燥エキス顆粒を服用するのとではどちらがより効果的だろうか?
 
生薬を煎じるにはそれなりに作法があり、手を抜くと有効成分が抽出しきれない可能性がある。一方、エキス剤ではそのようなことはない。また、生薬には煎じる手間が掛かるのに比べ、エキス剤は手軽に服用できる。
 
ところが、漢方家の話を聞くと、きちんと煎じた煎じ薬の方が成分が濃くて、エキス剤の方は成分が薄くなってしまうらしい。従って、効果の方もそれに準ずるだろうと予測できる。
 
手軽に服用できるエキス剤の効果を上げる方法はないだろうか?それにはエキス剤を元々の漢方薬本来の形で服用したらどうだろう。煎じ薬がドリップしたコーヒーだとすると、エキス剤はそれを抽出したインスタントコーヒーの粉末にあたる。インスタントコーヒーの粉をそのまま飲む人はいない。お湯に溶かしてから飲むものだ。
 
そういうわけで、僕は漢方薬エキス顆粒を中さじ位の量のお湯に溶かしてから、それをちゅ~る等の少量の液状のフードと混ぜて与える事にしている。溶けづらいので、根気良く攪拌しなければいけない。液体にすることで、胃滞留時間や胃酸の影響、腸での吸収のされ方などに変化があるかも知れない。
 
本来、食間つまり空腹時に服用するものなので、フードと混ぜて与えるのは作法に反するのだが、なんといっても苦くて不味いからね、漢方薬は…。嫌がるものを押さえつけて、シリンジで無理矢理飲ませた時の猫のストレスを考慮したら、作法に反するのもやむなしだと思う。
 
上記の煎じ薬とエキス剤についての効果の話はエビデンスがあるわけではないのであしからず。
 
お湯に溶かさずに顆粒のまま服用させる場合には、既に述べた空カプセルを使用すると良いと思う。