気高きジョウルの膨らみ

去勢された牡猫の睾丸へ捧げる鎮魂歌

ゲストハウスの屋上で ベナレスでハッピー・ホーリー!!

Vocatus atque non vocatus, Deus aderit.
Varanasi Lodge
 
その日、外の喧噪で目を覚まし、寝ぼけ眼で屋上から下界を見下ろすと、大勢の男達が押しかけてきていて、ゲストハウスの入り口を突破しようと木製のドアに群がっていた。
 
まだ目が覚めていなかったせいか、或は印度での長期滞在で大抵のことには驚かなくなっていたせいかは分からない。その様子を、ただ、ただ、人ごとのように眺めていたのを覚えている。もし、彼らがドアを押し破ってゲストハウスの中になだれ込んできていたら、僕もただでは済まなかったかも知れない。
 
ベナレスのメインガートからそう遠くない場所にあるゲストハウスの屋上に、物置のように一部屋だけポツンと建てられた宿に僕は滞在していた。民族楽器を習っていたので、他の滞在者に気兼ねなく音が出せるロケーションは好都合だった。
 
屋上は猿の群れの通り道にもなっており、洗濯物を干しているときに彼らがやってくると、盗まれるかズタズタに引き裂かれるかするので、干している間中ずっと見張っていなければならないし、群れがやってくると、階下へも食べ物等を物色しに降りていくので、いたずら防止の為に階下へ通じる扉は閉ざされ、中から鍵を掛けられてしまう。猿の群れが去った後、トイレに行く為に階下に降りようとしても鍵が掛っていて下りられない。吹き抜けから階下に向かって「オープン・ザ・ドォー」と、何度叫んだことか分からない。
 

 
冒頭で記した事件があったのは、ホーリーの日の朝のことだ。後から聞いた話によると、宿屋の親父が何かのことで人から恨みを買ったらしい。それで、祭りにかこつけて、恨みを晴らしに大勢で押しかけてきたというわけ。
 
祭りが終わってからも、1カ月間くらいは警官が1人、ゲストハウスの入り口に朝から晩まで常駐していたっけ。
 
最近では横浜の赤レンガ倉庫でもホーリーの真似事をやったりしているらしい。楽しいよね、ホーリー。色のついた粉や水を掛け合って、羽目を外すのはとても楽しい。牛のしょんべんや糞が飛んでくるのはご愛敬。印度ではホーリー、泰ではソンクラーン、どちらも経験したけど、それはそれは楽しかったですよ。
 
でも、本場のホーリーを赤レンガ倉庫のそれの規模の大きなものと思っているんだったら、ちょっと違うかも知れない。祭りは非日常なんです。だから、冒頭のようなことも起こるし、どんなことが起こるか全く予想もつかない。
 
カルカッタのバザールをぶらついていたときに、共産党のデモ行進にかち合ったことがある。僕も平和ボケした日本人の一人だから、それを好奇心一杯のサルのように間抜けヅラして眺めていた。
 
その瞬間までは…。
 
ちょうど、デモ隊が交差点に差し掛かるのと同時に、タクシーも交差点に進入してきた。タクシーがクラクションを鳴らすのを合図に、まるで蟻が獲物に群がる様にデモ隊がタクシーに群がっていくのを見て、本当に怖かったですよ。
 
僕が印度で出会った人々は、皆一様にジェントルな人達だったけど、集団心理の元では個人の良心なんて儚くも飲み込まれていってしまう。
 
Varanasi
 
丁度、大学生が卒業旅行に出かける頃なので、おっさんが余計なお世話で忠告させてもらう。過度に用心しすぎればつまらないし、不用心では危険すぎる。それは男も女も関係ない。もう、子供じゃないんだからわかるよな?
 
人生の中で印度でホーリーを迎えることが出来るなんて、そうそうあることじゃない。テクノロジーと経済の発展は人々の意識を変えていくだろうから、今あるホーリーが未来でも同じように経験できる保証なんてない。
 
折角、飛行機を乗りついで印度に行ったのに、ホーリーの日に部屋に閉じこもっているなんてもったいなさ過ぎる。
 
じゃあ、どうすれば良いのか?
 
それは自分で考えて…